「ラグビーのケガ予防と身体づくりシリーズ 第2回」
ラグビーでは、タックルやラックなどのコンタクトだけでなく、転倒して地面に手や肩をついたときにも肩を痛めることがあります。肩関節は大きく動かせる反面、強い外力を受ける競技ではケガに注意したい部位です。しかし、肩のケガを考えるときに見るべきなのは肩だけではありません。股関節や体幹、肩甲骨を含めた全身の使い方も重要です。今回は、ラグビーで肩を痛める場面や代表的なケガ、受診したいサイン、ケガのリスクを減らすための身体づくりについて、理学療法士の視点から解説します。
<目次>
- ラグビーで肩を痛めるのはなぜ?
・1-1 タックル・ラック・転倒などで肩に負担がかかる理由
・1-2 コンタクトの方向や姿勢で肩への負担が変わる - ラグビーで起こりやすい肩のケガ
・2-1 肩関節脱臼・亜脱臼が起こる場面と注意点
・2-2 肩鎖関節など肩周囲のケガと受診したいサイン - ラグビーで肩に負担を集中させない身体の使い方
・3-1 コンタクトで肩だけに衝撃を集中させないために
・3-2 股関節・体幹・肩甲骨を連動させる重要性 - 理学療法士が見るラグビー選手の肩
・4-1 肩の可動域だけでは身体の問題が分からない理由
・4-2 【事例】肩を痛めたラグビー選手に見られた身体の使い方 - ラグビーで肩のケガのリスクを減らすために
・5-1 ウォームアップ・身体づくり・コンタクト技術を見直す
・5-2 まとめ|肩だけでなく全身で衝撃を受けられる身体へ
- ラグビーで肩を痛めるのはなぜ?
ラグビーの肩のケガというとタックルを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、肩に大きな力が加わるのはタックルだけではありません。ラックやモール、相手との接触、転倒など、さまざまな場面で肩は外力を受けます。さらに、同じコンタクトでも身体の向きや姿勢によって肩への力の加わり方は変わります。まずは、どのような場面で肩に負担がかかるのかを知ることから始めましょう。
1-1 タックル・ラック・転倒などで肩に負担がかかる理由
タックルでは、自分から相手に当たる場合だけでなく、ボールを持っているときにタックルを受ける側でも肩に大きな力が加わります。走っている選手同士が接触するため、その衝撃を肩だけで受けてしまえば、肩関節やその周囲の組織には大きな負担がかかります。
また、ラックでは複数の選手が密集し、予測しにくい方向から力を受けることがあります。転倒した際に手をついたり、肩から地面へ落ちたりすることも肩を痛めるきっかけになります。
つまり、ラグビーの肩のケガは「タックルする側」だけの問題ではありません。タックルを受ける、相手と競り合う、地面へ倒れるなど、さまざまな状況で起こります。
すべての外力を避けることはできませんが、どの場面で肩に大きな力が加わるのかを理解することは、身体づくりやコンタクト技術を見直す第一歩になります。
1-2 コンタクトの方向や姿勢で肩への負担が変わる
同じように相手と接触しても、肩に加わる負担は毎回同じではありません。身体の正面に近い位置で衝撃を受ける場合と、腕が身体から離れた状態や予測していない方向から力を受ける場合では、肩への力の伝わり方が変わります。
ラグビーでは、実際の試合中に理想的な姿勢で接触できるとは限りません。相手も動いているため、バランスを崩した状態や身体をひねった状態でコンタクトすることもあります。
ここで重要なのは、肩だけの強さではありません。足で地面を捉え、股関節や体幹を使いながら姿勢をコントロールできることも、コンタクト時の身体の安定に関係します。
ただし、身体の使い方が良ければケガを完全に防げるわけではありません。強い外力が加われば、適切な姿勢でも負傷する可能性があります。「正しく当たればケガをしない」と考えるのではなく、避けられない外力に対して、できる限り負担を一部分へ集中させない身体づくりを考えることが大切です。
- ラグビーで起こりやすい肩のケガ
肩が痛いといっても、損傷している場所や程度は同じではありません。ラグビーでは、肩関節の脱臼・亜脱臼、肩鎖関節周囲の損傷など、コンタクトに関連したさまざまなケガが起こります。大切なのは自己判断で「ただの打撲」と決めつけないことです。特に強い痛みや変形などがある場合には、スポーツ整体より先に医療機関で適切な診断を受ける必要があります。
2-1 肩関節脱臼・亜脱臼が起こる場面と注意点
肩関節は大きな可動域を持つため、さまざまな方向へ腕を動かせることが特徴です。その一方で、ラグビーのように強い外力を受ける競技では、肩関節脱臼や亜脱臼が起こることがあります。
タックルや転倒などで腕が身体から離れた状態に強い力が加わったり、肩を地面へ強く打ちつけたりすることが受傷のきっかけになる場合があります。
一度脱臼した肩では、その後の不安定感や再受傷にも注意が必要です。そのため、「痛みがなくなったから大丈夫」と自己判断して競技へ復帰するのではなく、医師の診断のもとで必要なリハビリテーションを行い、可動域、筋力、安定性、競技動作などを段階的に確認していくことが重要です。
また、脱臼が疑われる場合に、選手本人や周囲の人が無理に肩を元へ戻そうとするのは避けてください。適切にプレーから離脱させ、医療機関で評価を受けることが優先されます。
2-2 肩鎖関節など肩周囲のケガと受診したいサイン
ラグビーで注意したいのは肩関節脱臼だけではありません。肩の外側から地面へ強く落ちたり、相手から大きな衝撃を受けたりすると、鎖骨と肩甲骨をつなぐ肩鎖関節周囲を損傷することがあります。
肩周囲には骨、関節、靱帯、筋肉、腱など多くの組織があるため、「肩が痛い」という症状だけで損傷部位を判断することはできません。
特に、強い痛みが続く、肩の形に明らかな変化がある、腕を動かせない、しびれや感覚の異常がある、転倒や強い衝突の後から症状が出たといった場合には、無理に練習を続けず医療機関を受診してください。
スポーツ整体で身体の使い方を評価することと、医療機関でケガを診断することは役割が異なります。まず骨折や脱臼など治療を必要とするケガを適切に評価したうえで、競技復帰に向けて身体機能や動作を整えていくことが大切です。
- ラグビーで肩に負担を集中させない身体の使い方
肩のケガを考えると「肩を強くしよう」と考えがちですが、ラグビーのコンタクトは肩だけで行うものではありません。足元から股関節、体幹、肩甲骨、肩へと全身が関わっています。肩周囲の筋力を高めることも大切ですが、それと同時に「持っている筋力を全身の中でどう使うか」という視点が必要です。
3-1 コンタクトで肩だけに衝撃を集中させないために
タックルなどのコンタクトで肩だけが前に出て、下半身や体幹が十分に使えていないと、相手から受ける力が肩周囲へ集中しやすくなる可能性があります。
大切なのは、肩を単独でぶつけるのではなく、足元から身体全体を使ってコンタクトすることです。下半身で身体を支え、股関節と体幹を使って姿勢を保ち、その上で肩や腕を働かせます。
これは「肩の筋力は必要ない」という意味ではありません。ラグビーでは肩周囲の筋力や安定性も重要です。しかし、肩が強くても身体全体がバラバラに動いていれば、肩へ負担が偏ることがあります。
また、実際のタックル技術はポジションや状況によって異なるため、自己流で練習するのではなく、指導者のもとで安全なコンタクト技術を身につけることも重要です。
ケガ予防を考えるときは「肩を鍛えるか、全身を使うか」の二者択一ではなく、両方を組み合わせて考える必要があります。
3-2 股関節・体幹・肩甲骨を連動させる重要性
ラグビーのコンタクトでは、肩だけを見るのではなく、股関節、体幹、肩甲骨まで含めた連動を考えることが重要です。
例えば股関節を十分に使えない状態では、コンタクト時に身体を安定させにくくなり、上半身に頼った動きになることがあります。また、胸郭や体幹の動きが乏しいと、肩甲骨や肩関節がその動きを代償し、負担が偏る場合もあります。
肩甲骨は腕を動かすための土台の一つです。肩関節だけが大きく動いていても、肩甲骨や体幹とうまく協調していなければ、スポーツの中で効率よく力を受けたり伝えたりできるとは限りません。
そのため身体を見る際には、「肩が硬いか」「筋力があるか」だけではなく、片脚で身体を支えたときの安定性や体幹の動き、肩甲骨と腕の協調なども確認します。
部分的な能力と、競技の中で全身を連動させる能力。この両方を高めていくことが、ラグビー選手の身体づくりでは重要です。
- 理学療法士が見るラグビー選手の肩
私は理学療法士として身体を評価するとき、痛みが出ている肩だけを見て判断しないようにしています。関節可動域や筋力に加え、肩甲骨、胸郭、体幹、股関節などがどのように連動しているかを確認します。なぜなら、検査では十分に動く肩でも、実際の動作になるとうまく使えていないことがあるからです。「動く身体」と「使える身体」は必ずしも同じではありません。
4-1 肩の可動域だけでは身体の問題が分からない理由
肩を評価するとき、腕がどこまで上がるか、外側や内側へどの程度動くかといった関節可動域は重要な情報です。しかし、可動域が広ければケガをしにくい、狭ければケガをする、と単純に判断することはできません。
実際のラグビーでは、立った状態で腕を上げるだけではなく、走りながら相手に当たり、外から力を受けても姿勢をコントロールする必要があります。
そのため、肩関節だけでなく肩甲骨や胸郭がどう動いているか、体幹を安定させられるか、左右差がないかなどを確認します。さらに必要に応じて股関節や下半身まで見ていきます。
例えば肩関節そのものには十分な可動域があっても、胸郭がほとんど動かなければ、肩が必要以上に動いて不足分を補っている場合があります。
第1回で紹介したプロップの事例でも、肩関節や股関節の可動域自体は比較的良好でしたが、上部体幹の動きが乏しく、他の部分で代償していました。
「柔らかい=使えている」と決めつけず、全身の中で肩がどのように働いているかを見ることが大切です。
4-2 【事例】肩を痛めたラグビー選手に見られた身体の使い方
肩を痛めたラグビー選手を評価するときには、まず受傷した状況や医療機関での診断、現在の痛みなどを確認します。そのうえで、競技復帰の段階に応じて肩関節の可動域や筋力、左右差、肩甲骨や体幹の動きなどを見ていきます。
ここで注意したいのは、「痛みがある=そこがすべての原因」と考えないことです。外傷そのものはタックルや転倒などの強い外力によって生じていても、競技復帰後に肩へ負担を集中させないためには、全身の動きを確認する意味があります。
例えば、肩関節の動きが戻っていても、コンタクト姿勢になると体幹がうまく使えず、肩だけが前に出ることがあります。反対に、股関節や体幹を使えるようになることで、肩だけに頼らず全身で姿勢をつくりやすくなるケースもあります。
重要なのは、施術によって肩を柔らかくすることだけではありません。「どの場面で肩に負担が集中するのか」を選手自身が理解し、競技に必要な動作を段階的に取り戻していくことです。
※この部分には実際に経験された症例を匿名化し、受傷場面・評価・身体の特徴・対応・経過を加えると、より具体的な内容になります。
- ラグビーで肩のケガのリスクを減らすために
ラグビーの肩のケガを完全に防ぐ方法はありません。しかし、身体づくり、ウォームアップ、コンタクト技術、疲労管理など、ケガのリスクを減らすために見直せる要素はあります。重要なのは「肩を強くする」だけで終わらせず、実際のラグビー動作の中で肩を使える状態をつくることです。
5-1 ウォームアップ・身体づくり・コンタクト技術を見直す
練習や試合前には、身体を温めるだけでなく、肩関節や肩甲骨、体幹、股関節などを動かしながら、競技で必要となる動作へ段階的に移行していくことが大切です。
身体づくりでは、肩周囲の筋力や安定性に加えて、下半身や体幹との連動も意識します。ラグビーでは止まった状態で筋力を発揮するだけでなく、走る、方向を変える、相手と接触するといった状況で身体をコントロールする必要があるからです。
そして忘れてはいけないのがコンタクト技術です。タックルでは頭部の位置を含め、安全性を重視した技術を適切な指導のもとで習得する必要があります。疲労によって姿勢や判断が変化することもあるため、練習量や休養を含めたコンディション管理も重要です。
「肩を鍛えれば大丈夫」ではなく、筋力・動作・技術・コンディショニングを組み合わせることが、ラグビーを長く続けるための身体づくりにつながります。
5-2 まとめ|肩だけでなく全身で衝撃を受けられる身体へ
ラグビーでは、タックルだけでなくラックや転倒などさまざまな場面で肩に強い力が加わります。肩関節脱臼・亜脱臼や肩鎖関節周囲のケガなどが疑われる場合には、自己判断で競技を続けず、まず適切な医学的評価を受けることが重要です。
そのうえで競技復帰やケガのリスクを考えるときには、肩だけを見るのではなく、肩甲骨、体幹、股関節、下半身まで含めて身体の使い方を確認します。
肩を守るために、肩だけを見ない。
肩周囲の筋力を高めながら、全身を連動させて力を受け、伝えられる身体をつくることが大切です。
ラグビーは接触を避けられない競技だからこそ、「ケガをしない身体」を目指すのではなく、ケガのリスクをできるだけ減らし、競技を続けられる身体づくりとコンディショニングを積み重ねていきましょう。
参考文献・参考資料
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・World Rugby. Rugby Ready-Injury Prevention and Risk Management.
・World Rugby. Activate-Injury Prevention Exercise Programme.