「ラグビーのケガ予防と身体づくりシリーズ 第3回【膝】」
ラグビーでは、タックルなどの接触だけでなく、走っている途中の切り返しや急停止、着地などでも膝を痛めることがあります。特に膝は、足元と股関節の間に位置し、走る・止まる・方向を変えるといった動作で大きな力を受ける部位です。そのため、膝のケガを予防するには「膝だけ」を見るのでは十分とはいえません。今回は、ラグビーで起こりやすい膝のケガと受診したいサイン、さらに足首・股関節・体幹を含めた身体の使い方について、理学療法士の視点から解説します。
<目次>
- ラグビーで膝を痛めるのはなぜ?
・1-1 タックルなどの接触で膝に大きな力が加わる理由
・1-2 切り返し・急停止・着地でも膝を痛めることがある
- ラグビーで起こりやすい膝のケガ
・2-1 前十字靱帯(ACL)・内側側副靱帯などの損傷
・2-2 半月板など膝周囲のケガと受診したいサイン
- ラグビーで膝に負担が集中しやすい身体の使い方
・3-1 切り返しや着地で膝に負担が集中する動きとは
・3-2 足首・股関節・体幹の連動が重要な理由
- 理学療法士が見るラグビー選手の膝
・4-1 膝の可動域や筋力だけでは分からない身体の問題
・4-2 【事例】膝を痛めたラグビー選手に見られた身体の使い方
- ラグビーで膝のケガのリスクを減らすために
・5-1 ウォームアップ・筋力・切り返し動作を見直す
・5-2 まとめ|膝だけでなく全身で動きをコントロールする
- ラグビーで膝を痛めるのはなぜ?
ラグビーで膝を痛める場面は、大きく分けると「相手との接触によって外から大きな力を受ける場面」と「切り返しや急停止など自分自身の動作の中で大きな負荷がかかる場面」があります。
肩のケガではタックルなどのコンタクトが大きな要因になりますが、膝の場合は相手と接触していなくてもケガが起こる可能性があります。この違いを理解することが、膝のケガを考えるうえで重要です。
1-1 タックルなどの接触で膝に大きな力が加わる理由
ラグビーではタックルを受けたとき、膝に自分ではコントロールしきれない大きな外力が加わることがあります。
例えば、足が地面についている状態で相手から接触され、身体だけが別の方向へ動けば、膝にはひねりや横方向への力が加わります。また、ラックなど複数の選手が集まる場面では、予測していない方向から力を受けることもあります。
このような接触によるケガは、筋力や身体の使い方だけですべて防げるものではありません。ラグビーはコンタクトスポーツであり、どれだけ身体を鍛えていても強い外力によって負傷する可能性があります。
そのため、「膝を鍛えればケガをしない」と考えるのではなく、コンタクト技術や身体づくりによって、できる範囲でケガのリスクを減らしていくという考え方が大切です。
1-2 切り返し・急停止・着地でも膝を痛めることがある
膝のケガで注意したいのが、相手との接触がない場面でも起こることです。
ラグビーでは、相手をかわすためのサイドステップ、トップスピードからの減速、急な方向転換、ジャンプ後の着地などが繰り返されます。
例えば、走ってきた身体を急激に止めようとすると、下半身には大きな力がかかります。そのとき足部や股関節を含めて身体全体で動きをコントロールできなければ、膝周囲への負荷が大きくなる可能性があります。
特に試合後半や練習終盤など疲労が蓄積した状況では、動作の正確性が低下することも考える必要があります。
「接触していないから大丈夫」ではありません。
ラグビーの膝のケガを考える場合には、相手から受ける外力と、自分自身が生み出す動きの両方を見る必要があります。
- ラグビーで起こりやすい膝のケガ
膝には、大腿骨と脛骨をつなぐ靱帯や関節内にある半月板など、スポーツ動作を支えるさまざまな組織があります。
ラグビーでは接触や切り返しなどによってこれらの組織を損傷することがあります。「少し休めば大丈夫」と自己判断せず、ケガが疑われる場合には適切な医学的評価を受けることが大切です。
2-1 前十字靱帯(ACL)・内側側副靱帯などの損傷
膝の代表的なスポーツ外傷の一つが、前十字靱帯(ACL)損傷です。
前十字靱帯は膝関節の安定に関わる重要な組織で、ラグビーでは接触だけでなく、急な減速や方向転換などの場面でも損傷する可能性があります。
また、膝の内側にある内側側副靱帯(MCL)も、タックルなどによって膝の外側から強い力を受けた際に損傷することがあります。
ここで注意したいのは、ケガの原因を「膝が内側に入ったから」「筋力が弱かったから」など、一つの要素だけで説明しないことです。
競技中のケガには、接触の有無や方向、スピード、足の接地、身体の姿勢、筋力、疲労、過去のケガなど、複数の要因が関係します。
そのため予防を考える場合にも、一つのトレーニングだけで解決しようとするのではなく、身体機能と競技動作の両方から考えることが重要です。
2-2 半月板など膝周囲のケガと受診したいサイン
ラグビーで起こる膝のケガは靱帯損傷だけではありません。膝をひねった際には半月板などを損傷することもあります。
受傷後に強い痛みや腫れがある、膝を十分に曲げ伸ばしできない、体重をかけて歩けない、膝が抜けるような不安定感がある、引っかかって動かしにくいといった症状がある場合には注意が必要です。
特に大きな外力を受けた後や、急激に膝が腫れてきた場合などは、練習を続けず医療機関を受診してください。
膝のケガでは、「痛みが少なくなった=競技復帰できる」とは限りません。
スポーツ整体で身体の使い方を評価することと、医療機関で損傷の有無や程度を診断することは役割が異なります。まず必要な診断・治療を受け、その後のリハビリテーションや競技復帰の段階で身体機能や動作を整えていくことが重要です。
- ラグビーで膝に負担が集中しやすい身体の使い方
膝の痛みがあると、膝周囲の筋肉を鍛えたりストレッチしたりすることに目が向きやすくなります。
もちろん膝周囲の筋力や可動性は重要です。しかし実際のスポーツ動作では、膝だけが単独で動いているわけではありません。
地面と接する足部・足首、その上にある膝、股関節、骨盤、体幹までが連動して一つの動作をつくっています。
3-1 切り返しや着地で膝に負担が集中する動きとは
切り返しでは、走ってきた身体を一度減速させ、方向を変えて再び加速します。
ここで重要なのが「減速」です。
速く走る能力に注目しがちですが、方向を変えるためには、その前に身体をコントロールしながらスピードを落とす必要があります。
このとき、股関節や足関節を十分に使えず、膝周囲だけで身体を支えようとすると、膝へ負荷が集中する可能性があります。
着地でも同じです。膝だけで衝撃を吸収するのではなく、足首・膝・股関節を使いながら身体全体で力を受けることが大切です。
ただし、見た目だけで「このフォームは危険」と決めつけることもできません。
身体の大きさや筋力、競技レベル、ポジションなどによって動き方は異なります。
重要なのは一つの「正しいフォーム」へ無理に当てはめることではなく、その選手が競技中に必要な動きをコントロールできているかを見ることです。
3-2 足首・股関節・体幹の連動が重要な理由
膝は足首と股関節の間にあります。そのため、足首や股関節の動きが十分でない場合、その影響が膝に現れることがあります。
例えば、足首が十分に動かないと、しゃがむ・着地する・減速するといった動作で別の部位が動きを補うことがあります。
股関節をうまく使えなければ、方向転換の際に骨盤や下肢をコントロールしにくくなることもあります。
さらに体幹が大きく崩れれば、その下にある股関節や膝にも影響します。
だからこそ、膝に痛みがある選手を見るときでも、膝だけを評価して終わりにはしません。
足部や足関節の可動性、股関節の動き、骨盤・体幹のコントロール、左右差などを確認し、「どこが動いていないのか」「どこが頑張りすぎているのか」を探していきます。
膝を守るために、膝だけを見ない。
これはラグビー選手の身体を考えるうえで大切な視点です。
- 理学療法士が見るラグビー選手の膝
理学療法士として膝に問題を抱える選手を見るとき、膝の曲げ伸ばしや筋力だけではなく、立つ・しゃがむ・片脚で支える・着地する・方向を変えるといった動作も確認します。
検査台の上では問題がなくても、身体を動かした瞬間に左右差や代償動作が見えてくることがあるからです。
4-1 膝の可動域や筋力だけでは分からない身体の問題
膝の評価では、関節可動域や筋力は大切です。しかし、それだけでスポーツ中の身体の使い方まで判断することはできません。
例えば膝を十分に曲げられ、太ももの筋力もある選手でも、片脚で身体を支えると骨盤が大きく傾いたり、股関節をうまく使えなかったりすることがあります。
反対に、膝そのものに問題があるように見えても、実際に全身を評価すると足首や股関節の動きに特徴が見つかる場合もあります。
そこで私は、
「膝がどれくらい動くか」
だけでなく、
「その可動域を実際の動作で使えているか」
を見るようにしています。
ラグビーでは止まった状態で膝を曲げ伸ばしするだけではなく、走りながら相手をかわし、急停止し、接触にも対応しなければなりません。
そのため最終的には、競技で必要になる動作へ近づけながら身体全体を評価する必要があります。
4-2 【事例】練習・試合の終盤に膝が痛くなる大学生ラグビー選手
実際にみた大学生のラグビー選手に、膝に大きな外傷や診断はないものの、違和感が続いているケースがありました。
普段は大きな問題を感じていません。しかし、ラグビーの練習や試合を続けていると、終盤になるにつれて膝に痛みが出てくるという状態でした。
本人も「なぜ膝が痛くなるのか分からない」という状況です。
そこで膝だけではなく、立った姿勢や身体のバランス、足元から股関節、骨盤、体幹まで含めて全身の状態を確認しました。
評価して気になったのが、立ったときの重心の位置です。
その選手が本来持っている身体の特徴から考えた重心の位置と、実際に立ったときの重心の位置に違いがみられました。
さらに話を聞いていくと、過去に足首を何度か捻挫しており、痛みが強かった時期もあったことが分かりました。
足首の捻挫そのものは以前のケガです。しかし、痛みがなくなったからといって、必ずしも受傷前と同じ身体の使い方に戻っているとは限りません。
痛みが強かった時期に無意識にかばっていた立ち方や動き方が、その後も身体の使い方に影響している可能性があります。
もちろん、この選手の膝の痛みが「過去の足首の捻挫によって起こった」と断定することはできません。
しかし、膝だけを評価していては見えてこない要素として、過去のケガや現在の重心の位置まで確認することには意味があります。
そこで、この選手の身体の状態に合わせて施術を行い、立った状態をもう一度確認しました。
施術後、本人から聞かれたのが、
「しっかり立っている感覚が強くなった」
という変化でした。
膝そのものの感覚だけではなく、足元から身体全体で地面を捉えやすくなった感覚があったようです。
その後、練習に参加した際には、それまで終盤になると出ていた膝の痛みを感じなかったとのことでした。
この結果だけから、施術によって膝の痛みが改善した、あるいは過去の足首の捻挫が膝痛の原因だったと結論づけることはできません。症状や身体の状態には個人差があり、膝の痛みには医療機関での診断や治療が必要なケースもあります。
ただ、この事例から考えてほしいのは、現在痛い場所と、身体に負担が生じている背景が必ずしも同じ場所とは限らないということです。
膝に違和感があるから膝だけを見るのではなく、
「過去にどんなケガをしているのか」
「今どこで身体を支えているのか」
「疲れてきたときに、どこへ負担が集中するのか」
まで確認する。
ラグビー選手の膝を評価するときに、私が大切にしている視点です。
- ラグビーで膝のケガのリスクを減らすために
ラグビーの膝のケガを完全に防ぐことはできません。特にタックルなどで予測できない大きな外力を受ければ、身体を鍛えている選手でも負傷する可能性があります。
その一方で、筋力やバランス、減速・着地・切り返しなどの動作、ウォームアップ、疲労管理など、選手自身が準備できる要素もあります。
「ケガをしない身体」を目指すのではなく、「ケガのリスクをできるだけ減らし、競技を続けられる身体をつくる」という考え方が大切です。
5-1 ウォームアップ・筋力・切り返し動作を見直す
膝のケガ予防というと、スクワットなどで下半身を鍛えることを考えるかもしれません。
筋力トレーニングは重要ですが、それだけで十分とは限りません。
ラグビーでは、鍛えた筋力を走る・止まる・方向を変えるといった実際の動作の中で発揮する必要があります。
そのため、ウォームアップでは身体を温めるだけでなく、バランス、筋力、着地、減速、方向転換など、競技につながる動きを段階的に取り入れることが大切です。
特に「速く走る」ことだけでなく、「止まる能力」を身につけることも重要です。
スピードをコントロールしながら減速し、次のプレーへ移れる身体をつくることは、パフォーマンスの面から考えても意味があります。
さらに、疲労が強い状態で無理に練習を続ければ、普段できている動作をコントロールしにくくなる可能性があります。
トレーニングだけでなく、練習量、睡眠、休養を含めたコンディショニングも身体づくりの一部です。
5-2 まとめ|膝だけでなく全身で動きをコントロールする
ラグビーでは、タックルなどの接触だけでなく、切り返し、急停止、着地といった非接触の動作でも膝を痛めることがあります。
前十字靱帯や内側側副靱帯、半月板などの損傷が疑われる場合には、自己判断で競技を続けず、まず医療機関で適切な評価を受けることが重要です。
そして競技復帰やケガのリスクを考える際には、膝だけではなく、足首・股関節・骨盤・体幹まで含めて身体を見ていきます。
膝周囲の筋力を高めることも必要です。しかし、それと同じくらい大切なのが、その筋力を実際のラグビー動作の中で使えることです。
走れるだけではなく、止まれる。
切り返せるだけではなく、その動きをコントロールできる。
こうした身体づくりを積み重ねることが、膝への負担を一部分に集中させず、ラグビーを長く続けるための土台になります。
参考文献・参考資料
・Dallalana RJ, Brooks JHM, Kemp SPT, Williams AM. The epidemiology of knee injuries in English professional rugby union. American Journal of Sports Medicine. 2007;35(5):818-830.
・Laaksonen J, Vaajala M, Pakarinen O, et al. Epidemiology of rugby injuries: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open Sport & Exercise Medicine. 2026;12(1):e002787.
・Attwood MJ, Roberts SP, Trewartha G, England ME, Stokes KA. Efficacy of a movement control injury prevention programme in adult men's community rugby union: a cluster randomised controlled trial. British Journal of Sports Medicine. 2018;52(6):368-374.
・World Rugby. Activate-Injury Prevention Exercise Programme.
・World Rugby. Rugby Ready-Injury Prevention and Risk Management.