「ラグビーのケガ予防と身体づくりシリーズ 第4回【下半身】」
ラグビーでは、スプリントや急加速、切り返し、タックルなどを繰り返すため、下半身に大きな負荷がかかります。なかでも注意したいのが、ハムストリングなどの肉離れと足首の捻挫です。どちらも比較的身近なケガですが、痛みが軽くなっただけで競技へ戻ると、再び同じ部位を痛めることがあります。大切なのは「痛い場所」だけでなく、過去のケガや全身の動きまで確認すること。今回は、ラグビーで起こる肉離れ・足首の捻挫と、ケガのリスクを減らす身体づくりについて理学療法士の視点から解説します。
<目次>
- ラグビーで下半身のケガが起こりやすいのはなぜ?
・1-1 スプリント・急加速・切り返しで筋肉に負担がかかる理由
・1-2 タックル・接触・着地で足首を痛めることがある
- ラグビーで起こりやすい肉離れ
・2-1 ハムストリングなどに肉離れが起こる原因
・2-2 肉離れを繰り返しやすい選手が注意したいこと
- ラグビーで起こりやすい足首の捻挫
・3-1 接触・着地・切り返しで足首を捻挫する理由
・3-2 捻挫を繰り返す場合と受診したいサイン
- 理学療法士が見るラグビー選手の下半身
・4-1 痛い場所だけでなく全身の動きを確認する理由
・4-2 【事例】足首の捻挫を繰り返していた高校生ラグビー選手
- ラグビーで下半身のケガのリスクを減らすために
・5-1 ウォームアップ・筋力・柔軟性・身体の使い方を見直す
・5-2 まとめ|ケガを繰り返さない身体づくりを考える
ラグビーで多い下半身のケガ|肉離れ・足首の捻挫と予防
- ラグビーで下半身のケガが起こりやすいのはなぜ?
ラグビーでは、走るだけでなく、急激にスピードを上げる、止まる、方向を変える、相手と接触するといった動作を繰り返します。
さらに、ボールや相手の動きに合わせて瞬間的に動きを変えなければなりません。
こうした競技特性から、太ももの筋肉や足首など下半身にはさまざまな方向から負荷がかかります。
第3回では膝のケガについて解説しましたが、第4回では「筋肉」と「足首」に注目して考えていきます。
1-1 スプリント・急加速・切り返しで筋肉に負担がかかる理由
ラグビーでは、試合中ずっと同じスピードで走るわけではありません。
ゆっくり動いていた状態から突然加速したり、相手を追うために全力でスプリントしたり、急停止して反対方向へ走ったりします。
こうした場面では、下半身の筋肉が大きな力を発揮します。
特に太ももの後ろにあるハムストリングは、走る動作や股関節・膝の動きをコントロールするうえで重要な筋肉です。高速で走る場面では大きな負荷がかかるため、肉離れが起こることがあります。
ただし、
「筋肉が硬いから肉離れをする」
と単純に考えることはできません。
過去の肉離れ、筋力、競技負荷、疲労、スプリントへの準備など、複数の要素が関係します。
そのため、ストレッチだけを行えば予防できるというものでもありません。
ラグビーの肉離れを考えるときには、「筋肉の柔らかさ」だけでなく、その筋肉が競技中に必要な力を発揮できる状態になっているかを見る必要があります。
1-2 タックル・接触・着地で足首を痛めることがある
足首の捻挫も、ラグビーでは注意したいケガの一つです。
タックルを受けた際に足が地面に残った状態で身体が倒れたり、相手の足の上に着地したり、切り返した瞬間にバランスを崩したりすることで、足首に大きな力が加わることがあります。
ラグビーでは選手同士の距離が近く、自分では予測できない位置へ足をつかなければならないこともあります。
そのため、すべての足首の捻挫を身体の使い方だけで防ぐことはできません。
一方で、過去に足首を何度も捻挫している選手では、可動域や筋力、バランス能力などが十分に戻っているかを確認することが重要です。
「捻挫くらいなら大丈夫」と考えず、その後の競技復帰まで含めて考える必要があります。
- ラグビーで起こりやすい肉離れ
肉離れは、筋肉が急激に引き伸ばされたり、大きな力を発揮したりする場面で起こる筋損傷です。
ラグビーでは特にスプリントや加速などの場面で起こることがあります。
肉離れで重要なのは、痛みがなくなることだけをゴールにしないことです。
ラグビーで必要なスピードや動きへ段階的に戻れる状態をつくるところまで考える必要があります。
2-1 ハムストリングなどに肉離れが起こる原因
ラグビー選手の肉離れでは、太ももの後ろにあるハムストリングが問題になることがあります。
スプリントでは脚を素早く前後へ動かしながら大きな力を発揮するため、ハムストリングにも高い負荷がかかります。
しかし、肉離れを「柔軟性不足だけ」が原因と考えるのは適切ではありません。
過去に肉離れを経験しているか、筋力が十分に戻っているか、急激に練習量やスプリント量が増えていないかなど、複数の要素を確認する必要があります。
また、ハムストリングだけが単独で働いているわけではありません。
走る動作では、臀部の筋肉、股関節、骨盤、体幹なども関わっています。
そのため、肉離れを繰り返す選手では痛めた筋肉だけでなく、走ったときに身体全体をどのように使っているのかまで見ることが重要です。
2-2 肉離れを繰り返しやすい選手が注意したいこと
肉離れで特に注意したいのが再発です。
痛みがなくなり、普通に歩けるようになると「もう治った」と感じるかもしれません。
しかし、日常生活で歩くことと、ラグビーで全力疾走することでは筋肉に求められる能力が大きく異なります。
ジョギングでは問題がなくても、スピードを上げた瞬間に違和感が出ることもあります。
そのため競技復帰では、痛みだけで判断するのではなく、筋力や可動性などを確認しながら、ランニングからスプリントへ段階的に負荷を上げていくことが重要です。
また、
「肉離れをしたから、しばらく伸ばしておけば大丈夫」
という考え方にも注意が必要です。
ストレッチは身体を整える一つの方法ですが、それだけでラグビーに必要な筋力や高速での動作能力が戻るわけではありません。
痛みがなくなったことと、ラグビーへ戻る準備が整ったことは同じではない。
肉離れを繰り返さないために、ぜひ知っておいてほしいポイントです。
- ラグビーで起こりやすい足首の捻挫
足首の捻挫はスポーツでは比較的よく耳にするケガです。
そのため、「少し腫れただけ」「何度もやっているから大丈夫」と軽く考えてしまう選手もいます。
しかし、捻挫では足首周囲の靱帯などを損傷している可能性があります。
さらに、痛みがなくなった後も足首の動きや安定性などに問題が残っていないか確認することが大切です。
3-1 接触・着地・切り返しで足首を捻挫する理由
足首の捻挫は、足をついたときに足首へ大きなひねりの力が加わることで起こります。
ラグビーではタックルなどの接触だけでなく、ジャンプ後の着地、相手の足を踏んだとき、切り返したときなど、さまざまな状況があります。
ここでも「正しい身体の使い方をすれば捻挫しない」と考えるのは適切ではありません。
相手との接触や予測できない着地など、選手自身ではコントロールできない要素があるからです。
一方で、足首周囲の筋力やバランス能力、身体をコントロールする能力など、準備できる部分もあります。
大切なのは、ケガをゼロにできると考えるのではなく、競技で起こるさまざまな状況に対応できる身体をつくっていくことです。
3-2 捻挫を繰り返す場合と受診したいサイン
足首を捻挫した後、強い腫れや痛みがある、体重をかけられない、歩くことが難しい、明らかな変形があるといった場合には、無理に練習へ戻らず医療機関を受診してください。
「捻挫だと思っていたら別の損傷があった」という可能性もあるため、自己判断は禁物です。
また、捻挫を繰り返している場合にも注意が必要です。
「昔から捻挫しやすい体質だから」で終わらせるのではなく、足首の可動域、筋力、バランス、身体の使い方などを一度確認する意味があります。
第3回【膝】で紹介した大学生ラグビー選手にも、過去に足首を何度か捻挫し、痛みが強かった時期がありました。
その選手では、現在の膝だけを見るのではなく、過去の足首のケガも含めて身体全体を評価しました。
過去のケガと現在の症状に直接的な因果関係があるとは限りません。
しかし、過去のケガは「昔の話」ではなく、現在の身体を評価するための重要な情報の一つです。
- 理学療法士が見るラグビー選手の下半身
肉離れなら太もも、捻挫なら足首。
もちろん痛めた場所を確認することは必要です。
しかし理学療法士として身体を見るときには、「そこを痛めた」という情報だけでなく、「なぜその場所に負担が集中したのか」という視点も持つようにしています。
特にケガを繰り返している選手では、現在の症状だけでなく、過去のケガや左右差、全身の動きを確認することが重要です。
4-1 痛い場所だけでなく全身の動きを確認する理由
人の身体は、一つの関節や筋肉だけで動いているわけではありません。
例えばスプリントでは、足部、足首、膝、股関節、骨盤、体幹、上半身まで連動して身体を前へ進めています。
そのため、一つの部分が十分に機能していなければ、別の場所がその働きを補うことがあります。
肉離れをした選手でも、ハムストリングだけを見ればよいとは限りません。
足首の捻挫を繰り返している選手でも、足首だけが問題とは限りません。
私は身体を評価するとき、
「どこが硬いのか」
だけではなく、
「どこが動いていないのか」
「どこが必要以上に頑張っているのか」
「立ったときに身体をどこで支えているのか」
といった点まで確認します。
可動域が十分にあることと、その可動域をスポーツ動作の中で使えることも同じではありません。
ラグビーで必要なのは、持っている身体機能を実際のプレーの中で使えることです。
4-2 【事例】左右の足首の捻挫を繰り返していた高校生ラグビー選手
実際にみた高校生のラグビー選手に、左右の足首の捻挫を繰り返しているケースがありました。
特に右足首を捻挫する回数が多く、これまで何度も同じようなケガを経験していました。
しかし、捻挫をするたびに整形外科を受診していたわけではありません。また、練習に早く戻りたいという気持ちもあり、治療やリハビリテーションを最後まで継続せず、痛みが軽くなると競技へ戻ることもあったそうです。
このようなケースで注意したいのが、
「痛みがなくなった=足首の機能が元に戻った」とは限らない
ということです。
そこで足首の状態を詳しく確認すると、足首を内側・外側へ動かしたときの動き方に違いがあり、関節可動域にも大きな左右差がみられました。
さらに、この選手には足首だけでなく腰痛もあり、身体には筋肉の強い張りもみられました。
足首の捻挫を繰り返しているからといって、腰痛や筋肉の張りまで「足首が原因」と断定することはできません。
しかし、ラグビーでは足首だけが単独で働いているわけではありません。
走る、止まる、切り返す、相手と接触するといった動作では、足部・足首から膝、股関節、骨盤、体幹までが連動しています。
そのため私は、捻挫を繰り返す選手を見るときにも、痛めた足首だけではなく全身の状態を確認することを大切にしています。
この選手にも、評価で確認した身体の状態に合わせて施術を行いました。
施術後に再び足関節の可動域を確認すると、それまでみられていた大きな左右差が小さくなり、左右とも正常範囲内で動かせる状態になりました。
また、立った状態で感じていた腰部の張りも少なくなりました。
さらに本人からは、その後の走りについて「以前より走りやすい」「速くなった感じがする」という感想も聞かれました。
ただし、これはタイムを測定して比較した結果ではないため、施術によって走るスピードが向上したと断定することはできません。
この事例で大切なのは、施術による変化そのものだけではありません。
何度も捻挫しているのに、痛みが軽くなるたびに競技へ戻っていたこと。そして実際に評価すると、足首の動きに大きな左右差が残っていたことです。
ラグビー選手にとって「練習を休みたくない」という気持ちは理解できます。
しかし、早く競技へ戻ることだけを優先し、必要な治療やリハビリテーションを途中で終えてしまえば、足首の機能が十分に回復しないままプレーを続けることになる可能性があります。
捻挫を「いつものこと」で終わらせず、
関節の動きは戻っているか。
左右差は残っていないか。
走る・止まる・切り返す動作まで戻っているか。
そこまで確認して競技復帰を考えることが、捻挫を繰り返しているラグビー選手には重要です。
※本事例は一例であり、同様の変化がすべての選手に起こるわけではありません。強い痛みや腫れ、荷重困難などがある場合には、まず医療機関で適切な診断・治療を受けることが大切です。
5-1 ウォームアップ・筋力・柔軟性・身体の使い方を見直す
ケガ予防では「ストレッチをすればいい」「筋トレをすればいい」と、一つの方法だけに頼らないことが重要です。
筋力や柔軟性は身体づくりの大切な要素ですが、ラグビーではそれを実際の動作で使わなければなりません。
肉離れの予防を考えるなら、ハムストリングなどの筋力を高めるだけでなく、段階的に走る速度を上げ、スプリントに必要な身体を準備していきます。
足首についても、可動性や筋力だけでなく、片脚で身体を支える、着地する、切り返すといった動作につなげていくことが大切です。
ウォームアップでも、身体を温めるだけで終わらせず、筋力、バランス、方向転換など競技に必要な動きを段階的に取り入れていきます。
そして、練習量や試合数が増えて疲労が蓄積している場合には、休養を含めたコンディショニングも必要です。
身体づくり、競技動作、練習量。
これらを別々に考えるのではなく、総合的に見直すことがケガのリスクを減らすことにつながります。
5-2 まとめ|ケガを繰り返さない身体づくりを考える
ラグビーでは、スプリントや急加速による肉離れ、接触や着地による足首の捻挫など、下半身にさまざまなケガが起こります。
こうしたケガを考えるときに大切なのは、
「痛みがなくなった=元の身体に戻った」と決めつけないことです。
痛みが改善していても、筋力や可動性、バランス、身体の使い方などが競技に必要なレベルまで戻っているとは限りません。
特に肉離れや足首の捻挫を繰り返している場合には、痛めた場所だけでなく、過去のケガや全身の動きを振り返ることも重要です。
そして、必要な筋力や柔軟性を取り戻しながら、走る、止まる、着地する、切り返すといったラグビーに必要な動作へ段階的につなげていきます。
ケガをした場所だけを元に戻すのではなく、もう一度ラグビーができる身体をつくる。
ラグビーを長く続けるためにも、痛みがなくなったところをゴールにせず、その先の競技復帰まで考えた身体づくりを行っていきましょう。
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