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ラグビーのケガはポジションで違う?FW・BKの特徴と予防

「ラグビーのケガ予防と身体づくりシリーズ 第5回【ポジション】」

ラグビーでは、FW(フォワード)とBK(バックス)で求められるプレーが異なるため、身体にかかる負担にも違いがあります。スクラムやラックなど接触機会の多いFWと、スプリントや切り返しを繰り返すBKでは、注意したい身体の部位やケガにも一定の傾向があります。ただし、「FWだからこのケガ」「BKだからこのケガ」と単純に分けることはできません。今回は、FW・BKそれぞれの特徴から、ポジションと個人に合わせたケガのリスクを減らす身体づくりについて、理学療法士の視点から解説します。

 

<目次>

  1. ラグビーのケガはポジションによって違う?

・1-1 FWとBKではプレーの特徴と身体への負担が違う
・1-2 ポジションだけではケガの種類を決められない理由

  1. FWに多い身体への負担とケガの特徴

・2-1 スクラム・モール・ラックで首・肩・体幹にかかる負担
・2-2 タックルや接触を繰り返すFWが注意したいケガ

  1. BKに多い身体への負担とケガの特徴

・3-1 スプリント・急加速で下半身にかかる負担
・3-2 切り返し・急停止で膝や足首にかかる負担

  1. 理学療法士が見るポジション別の身体づくり

・4-1 FW・BKで身体の評価を変える理由
・4-2 【事例】ポジションの特徴と身体の使い方を評価したラグビー選手

  1. ポジションに合わせてケガのリスクを減らすために

・5-1 FW・BKそれぞれに必要な身体づくりを考える
・5-2 まとめ|ポジションと個人の特徴に合わせて身体を整える

 

  1. ラグビーのケガはポジションによって違う?

ラグビーには15人制の場合、FW8人、BK7人という異なる役割があります。

同じラグビー選手でも、スクラムを組むことが多い選手と、広いスペースを高速で走ることが多い選手では、身体に求められる能力が同じではありません。

そのため、ケガを考える際にも「ラグビー選手」という大きなくくりだけでなく、その選手がどのポジションで、どのようなプレーを繰り返しているのかを見ることが重要です。

1-1 FWとBKではプレーの特徴と身体への負担が違う

FWはスクラム、モール、ラック、タックルなど、相手選手と身体を接触させながら力を発揮する機会が多いポジションです。

例えばスクラムでは、相手から大きな力を受けながら自分たちも力を発揮します。ラックやモールでは低い姿勢で相手と接触しながら、身体を支えたり前へ押したりする能力が求められます。

一方、BKではスプリント、急加速、減速、切り返しなど、高いスピードの中で身体をコントロールする場面が多くなります。

相手を抜くために方向を変えたり、ディフェンスに対応して急停止したり、再び加速したりする必要があります。

つまり、

FWは「大きな力を受けながら力を出す能力」、BKは「高いスピードの中で身体をコントロールする能力」が重要になる場面が多い

と考えることができます。

こうしたプレーの違いが、身体にかかる負担の違いにもつながります。

1-2 ポジションだけではケガの種類を決められない理由

ただし、

「FWは接触によるケガをする」

「BKは走って下半身を痛める」

と単純に考えることはできません。

BKもタックルをしますし、FWも試合中には走る、止まる、切り返すといった動作を行います。

さらに、同じFWでもPR(プロップ)とFL(フランカー)ではプレーの特徴が異なります。BKでもSH(スクラムハーフ)とWTB(ウイング)では求められる動きが同じではありません。

ケガにはポジションだけでなく、接触した状況、過去のケガ、筋力、可動性、競技レベル、練習や試合による負荷など、さまざまな要素が関係します。

そのためポジションは、

「このケガが起こる」と決めるものではなく、その選手の身体にどのような負荷がかかっているのかを考えるための情報の一つ

として捉えることが大切です。

 

  1. FWに多い身体への負担とケガの特徴

FWのプレーで特徴的なのは、スクラム、ラック、モールなど、相手選手と接触しながら大きな力を発揮する場面が多いことです。

しかし、「身体が大きくて筋力があれば大丈夫」というわけではありません。

大きな力を出す能力だけでなく、相手から受けた力に対して姿勢を保ち、全身で力を受ける能力も必要になります。

2-1 スクラム・モール・ラックで首・肩・体幹にかかる負担

スクラムでは、複数の選手が組み合いながら前方へ力を加えます。

特にフロントローでは首や肩、体幹などに大きな力が加わる場面があります。

ラックやモールでも、相手に押されながら姿勢を保ったり、低い姿勢から前へ力を伝えたりするため、上半身だけでなく股関節や下半身を含めた全身の働きが必要です。

ここで重要なのが、「筋力が強い=身体をうまく使えている」ではないということです。

例えば上半身に十分な筋力があっても、股関節や体幹がうまく使えていなければ、一部の場所に負担が集中することがあります。

第1回【総論】で紹介したプロップの選手でも、股関節や肩にはある程度の柔軟性がありながら、上部体幹の動きが少なく、別の場所でその動きを補っていました。

ラグビーの身体づくりでは、単純な筋力の強さだけでなく、

「その力を全身でどう使っているのか」

を見ることが重要です。

2-2 タックルや接触を繰り返すFWが注意したいケガ

FWでは、スクラムだけでなく、タックル、ラック、モールなど接触プレーを繰り返します。

そのため肩など上半身を痛めることがありますが、注意したいのは上半身だけではありません。

タックルを受けた際に膝へ大きな力が加わったり、ラックで足が固定された状態で身体が動いたりすることで、下半身を痛めることもあります。

第2回【肩】でも解説したように、コンタクトで肩に加わる衝撃をすべて身体の使い方で防げるわけではありません。

相手の体重、接触する方向、スピードなど、自分ではコントロールできない要素があるためです。

だからこそFWの身体づくりでは、

「身体を大きくする」

「筋力を強くする」

だけでなく、股関節や体幹を含めて姿勢をコントロールし、全身で力を発揮できる状態をつくることが大切になります。

 

  1. BKに多い身体への負担とケガの特徴

BKでは、広いスペースを使って走る場面が多く、高速でのスプリントや急加速、切り返しなどが求められます。

そのため、ハムストリングなどの筋肉や膝、足首といった下半身に大きな負荷がかかることがあります。

しかしBKのケガも、「走り過ぎ」だけで説明できるものではありません。

3-1 スプリント・急加速で下半身にかかる負担

止まっている状態や低速から一気に加速するとき、下半身では大きな力を発揮します。

さらにトップスピードに近い状態で走る場面では、ハムストリングなどにも大きな負荷がかかります。

第4回【下半身】で解説した肉離れも、こうした高速で走る場面で注意したいケガの一つです。

ただし、

「ハムストリングが硬いから肉離れをする」

と単純に考えることはできません。

過去の肉離れ、筋力、競技負荷、スプリントへの準備など複数の要素を考える必要があります。

また、速く走るためには脚だけを速く動かせばよいわけではありません。

足部、足首、膝、股関節、骨盤、体幹、上半身が連動し、地面から受けた力を身体全体で利用する必要があります。

BKの身体を見る場合にも、痛めた筋肉だけではなく、スプリントの中で全身をどのように使っているのかという視点が必要になります。

3-2 切り返し・急停止で膝や足首にかかる負担

BKに必要なのは「速く走る能力」だけではありません。

相手の動きに合わせて減速し、方向を変え、再び加速する能力も必要です。

つまり、

加速 → 減速 → 切り返し → 再加速

を短時間で繰り返しています。

こうした場面では、膝や足首などに大きな力が加わります。

特にスピードが高い状態から急激に止まったり方向を変えたりすると、下半身で大きな力を受け止めなければなりません。

第3回【膝】でも紹介したように、膝のケガはタックルなどの接触だけでなく、切り返しや急停止などでも起こります。

また第4回【下半身】では、足首の捻挫を繰り返していた高校生ラグビー選手の事例を紹介しました。

その選手では評価すると足関節の可動域に大きな左右差がみられました。

速く走れることと、速い状態から身体を安全にコントロールできることは別の能力です。

BKの身体づくりでは、スピードだけでなく「止まる」「方向を変える」という能力にも目を向ける必要があります。

 

  1. 理学療法士が見るポジション別の身体づくり

ラグビー選手の身体を見るとき、私は「どこが痛いのか」だけでなく、「どのポジションで、どのようなプレーをしているのか」も確認します。

なぜなら、同じ身体の状態でも、競技中に求められる動きによって意味が変わるからです。

さらに、ポジションだけで判断せず、その選手自身の身体の特徴を見ることが重要です。

4-1 FW・BKで身体の評価を変える理由

例えばFWであれば、スクラムやコンタクトの中で姿勢を保ち、相手から受ける力に対して全身で対応できているかを考えます。

首や肩だけではなく、体幹、股関節、下半身まで確認します。

BKであれば、スプリントや切り返しに必要な足首、膝、股関節の動きに加えて、片脚で身体を支えたときの状態や、体幹との連動なども見ていきます。

しかし、ここで大切なのは、

「FWだからこの評価」「BKだからこの評価」と決めつけないことです。

同じポジションでも、身体の大きさ、柔軟性、筋力、過去のケガ、得意な動きは一人ひとり異なります。

さらに、本人が感じている痛みと、実際に身体を評価して見つかる特徴が同じ場所にあるとも限りません。

だからこそ、

ポジション特性 × 個人の身体特性 × 過去のケガ × 現在の動き

を組み合わせて考えることが重要です。

4-2 【事例】プロップの競技特性から全身の動きを評価したラグビー選手

実際に身体を評価したプロップの選手に、腰痛と肩の痛みがあり、症状にも左右差がみられるケースがありました。

プロップは、スクラムで相手から大きな力を受けながら姿勢を保つだけでなく、ラックやモール、タックルなどのコンタクトプレーにも繰り返し参加します。

そのため、この選手を評価するときも「腰が痛いから腰を見る」「肩が痛いから肩を見る」だけではなく、プロップとして身体全体でどのように力を受け、どのように力を伝えられる状態なのかという視点から確認しました。

まず股関節と肩関節の可動域を確認すると左右差はありましたが、動きの良い側では可動域そのものは比較的良好で、筋肉の柔軟性も保たれていました。

そのため、単純に「身体が硬いから腰や肩に負担がかかっている」とは考えにくい状態でした。

そこでさらに全身の動きを確認していくと、特徴的だったのが上部体幹の動きです。

肩や股関節には動く能力がある一方で、上部体幹の動きは非常に少なく、その不足を他の部位の動きで補っていました。

ここで重要なのが、今回のテーマであるポジションとの関係です。

プロップはスクラムやコンタクトなど、大きな力を受けながら身体を支える場面が多くあります。そのような状況で身体の一部分が十分に動かず、他の場所で動きを補う状態が続けば、特定の部位に負担が偏る可能性があります。

もちろん、この選手の腰痛や肩の痛みが「上部体幹が動かなかったことだけで起きた」と断定することはできません。

しかし、症状のある場所だけを見ていては、この選手にみられた身体全体の特徴を把握することはできませんでした。

施術では、痛みのある肩や腰だけではなく、評価で確認した上部体幹を含め、全身の動きと左右差を見ながら身体を整えていきました。

施術後に再評価すると、それまでみられていた身体の左右差が小さくなり、立位でも一方へ偏らず、本人も身体の真ん中でしっかり立てる感覚を得られる状態へ変化しました。

この事例で伝えたいのは、

「プロップだから身体を大きくして、筋力をつければよい」というわけではない

ということです。

筋力や柔軟性があっても、それを実際のプレーの中で全身の動きとして使えているとは限りません。

また、同じプロップでも身体の特徴や過去のケガ、プレースタイルは選手によって異なります。

だからこそラグビー選手の身体づくりでは、

ポジションで求められる動きを理解すること。
そのうえで、一人ひとりの身体が実際にどう動いているのかを確認すること。

この両方が重要だと考えています。

※施術による変化には個人差があり、本事例がすべてのプロップや腰痛・肩痛の原因、施術結果に当てはまるものではありません。

 

  1. ポジションに合わせてケガのリスクを減らすために

ラグビーでは、すべてのケガを防ぐことはできません。

特にタックルなどの接触では、相手の動きや衝撃など自分ではコントロールできない要素があります。

一方で、自分の身体を競技に必要な状態へ準備しておくことはできます。

その際に大切なのが、全員に同じ身体づくりを当てはめないことです。

5-1 FW・BKそれぞれに必要な身体づくりを考える

FWでは、大きな力を発揮する筋力だけでなく、スクラムやラックなどで姿勢を保ち、全身で力を伝える能力が必要です。

BKでは、スプリント能力だけでなく、高いスピードから減速し、切り返し、再加速する能力が必要です。

しかし、

FW=筋力トレーニング

BK=スプリントトレーニング

と単純に分けるのも適切ではありません。

FWにも走力は必要ですし、BKにもコンタクトに耐える身体づくりが必要です。

ウォームアップ、筋力、柔軟性、バランス、スプリント、方向転換などを、その選手のポジションや身体の状態に合わせて組み合わせていくことが大切です。

そして、過去に肩、膝、足首、肉離れなどのケガを経験している場合には、その部位の痛みがなくなっているだけでなく、ラグビーに必要な動きまで十分に戻っているかを確認します。

トレーニングの種類を増やすことより、自分には何が必要なのかを知ること。

それがポジションに合わせた身体づくりでは重要です。

5-2 まとめ|ポジションと個人の特徴に合わせて身体を整える

ラグビーではFWとBKでプレーの特徴が異なり、身体にかかる負担にも違いがあります。

FWではスクラム、ラック、モール、タックルなど接触しながら力を発揮する場面が多く、BKではスプリント、急加速、減速、切り返しなど高いスピードの中で身体をコントロールする場面が多くなります。

しかし、ポジションだけでケガを予測することはできません。

同じFWでも身体の特徴は違います。

同じBKでも過去のケガや身体の使い方は違います。

このシリーズでは、第1回でラグビーのケガ全体、第2回で肩、第3回で膝、第4回で肉離れ・足首の捻挫について解説してきました。

すべてに共通しているのは、

「痛い場所だけを見ない」

ということです。

肩を守るために肩だけを見るのではない。

膝を守るために膝だけを見るのではない。

足首を繰り返し捻挫しているなら、足首だけでなく過去のケガや全身の動きも確認する。

そして今回のポジションについても同じです。

「FWだから」「BKだから」と身体づくりを決めるのではなく、その選手がどのようなプレーをし、身体のどこに負担が集中しているのかを見る。

ポジションの特徴を理解したうえで、一人ひとりの身体の状態に合わせて準備することが、ケガのリスクを減らし、長くラグビーを続けるための身体づくりにつながります。

 

参考文献・参考資料

・Williams S, Trewartha G, Kemp S, Stokes K. A meta-analysis of injuries in senior men's professional Rugby Union. Sports Medicine. 2013;43(10):1043-1055.

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・Quarrie KL, Hopkins WG. Tackle injuries in professional Rugby Union. American Journal of Sports Medicine. 2008;36(9):1705-1716.

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・World Rugby. Activate – Injury Prevention Exercise Programme.